2017年04月16日

【賃貸借】【敷金返還トラブル】 敷引き特約は有効か

 

1,はじめに

今回は,賃貸借契約において,敷金を差し入れており,さらに敷引き特約も定められている場合のお話です。

敷引き特約とは,賃貸借契約終了時にあらかじめ敷金の一定額を返還しない旨の条項を言います。例えば,敷金50万円のうち20万円は返還しないものとし,残金30万円から原状回復相当額を控除し残金を返還する・・という具合です。

 

本来敷金とは,原状回復費用を差し引いて全額が返ってきて然るべきものですから,これが自動的に返還されなくなる条項は明らかに借主に不利な内容であって,無効ではないかと考えられます。

敷金という返還してもらえそうな書き方をしといて,返さないなんて契約は無効じゃないか,返さないなら最初から礼金と書けばいいじゃないか,という思いを抱く方も多いと思います。実際,それで揉めて裁判になった事例がたくさんあります。また,敷金が返ってこないという敷引き特約が定められているのに,さらに原状回復費用の請求までされるのは,賃貸人の二重取りじゃないか,そういう疑問が出てくる方もいらっしゃるでしょう。そこで,今回のブログではその疑問について答えていこうと思います。

 

2,敷引き特約の有効性

 

まず初めに,敷引き特約の有効性についてお話します。

 

これは,敷引き特約が消費者契約法10条に引っかからないか,という問題です。消費者契約法10条は,通常より消費者の権利を制限したり,消費者の義務を増やしたりする契約条項のうち,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効であるという法律です。

敷引き特約は,何もなければ本来返還されるべき敷金について,あらかじめ返還しないと定めるものですから,一方的に消費者の利益を害するものであって,消費者契約法10条に反し,無効ではないかが問題になります。

 

この問題については,最高裁判所の平成23年3月24日の判決があります。最高裁は「本件特約は,契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって,本件敷引金の額が,契約の経過年数や本件建物の場所,専有面積等に照らし,本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また,本件契約における賃料は月額9万6000円であって,本件敷引きの額は上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,上告人は本件契約が更新される場合に1ヶ月分の賃料相当の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない」とし,「そうすると,本件敷引きの額が高過ぎると評価することはできず,本件契約が消費者契約法10条により無効であるということはできない」と判断しました。

 

この最高裁判決自体は,その事件で問題になった敷引き特約を有効としたわけですが,これにより,世の中のすべての敷引き特約が有効と公に認められたというわけではありません。最高裁は,敷引き特約が有効となるための基準を示しました。その基準は,「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引き特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となる」というものです。

簡単に言えば,敷引き特約は,敷引きされる金額が賃料等に比べてあまりにも高額でない限りは有効である,ということになるでしょう。そして,最高裁は,賃料の3.5倍強程度の敷引き金であれば,あまりにも高額とはいえないとしているため,原則として,少なくとも賃料の3.5倍以下の敷引き金であれば有効ということになります。

 

3,敷引き特約と原状回復費用の関係

 

次に,敷引き特約と原状回復費用の関係です。

 

敷引き特約の法的性質は,一般に,①賃貸借契約成立の謝礼,②通常損耗の修繕費,③更新料の免除の対価,④契約終了後の空室期間の賃料,⑤賃料を定額とすることの代償という要素があるとされ,契約時に明確に示されていない場合は,5つの要素が混ざり合っていると解されるという考え方が有力です。

そうすると,通常損耗を超える分の修繕費については,敷引きされるお金でまかなうことが予定されていない,ということになります。

そのため,敷引き特約がある場合であっても,原則として,通常損耗を超える分の原状回復費用は賃借人が負担しなければなりません

 

4,敷引き特約がある場合に,中途解約がなされたとき

 

賃貸借契約の存続期間が定められていたのに,その途中において賃貸借契約が終了したなら,貸主は,特段の合意がない限り,約定にかかる償却費を賃貸期間と残存期間とに按分比して,残存期間に相当する償却費を借主に返還すべき,とした判決があります(東京地判平成4年7月23日)。

敷引き特約が通常損耗の修繕費の性質を有するとすれば,予定した期間より早く退去したとき,通常損耗の度合いは少ないのが通常ですから,残存期間分の敷引金額は返却されてしかるべきでしょう。

 

5,保証金の償却

 

賃貸借契約によっては,保証金を差し入れており,保証金の償却が定められている場合もあります。

では,保証金とは何でしょうか。敷金と違うのでしょうか。

結論からいうと,実質的には敷金として保証金が授受されることも多いです。特に,居住用の賃貸借の場合に保証金の名目で授受されたお金は,実質的には敷金といえる場合が多いでしょう(地域によっては,敷金という言葉が一般的ではなく,保証金という言葉が変わりに使われていることもあるそうです)。また,事務所等の賃貸借契約についても,東京地裁平成4年7月23日判決は,「事務所等の賃貸借契約において,借主が貸主に預託することを約した保証金の性質は,これを限時解約金とするなどの別段の特約がない限り,いわゆる敷金と同一の性質を有するものと解するのが相当」と述べており,一般的には敷金と保証金の性質は共通するものと言えると考えられます。

よって,保証金の償却についても,敷金と同じように考えることができるでしょう。

 

6,まとめ

 

敷引き特約は,初めて見る人にとってよくわからないものであり,地域によって一般的でない場合も多いため,トラブルが多く,裁判にまで発展することも多々あります。

トラブルを防止するためには,敷引きされるお金は通常損耗の費用にあてられることを契約書に明記するなど契約書作成について工夫するとともに,賃貸借契約の締結時に重要事項説明書に明示し,借主に十分な説明をし,きちんと納得を得なければならないでしょう。

 

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