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2021.07.08
ペット関連

ペットショップやブリーダー,トリマーのあるあるトラブル&知っておくべき法的知識

ペットショップ,ブリーダーさん,トリマーさんなど生き物を扱うお仕事にはどうしてもトラブルがつきものです。これらのお仕事をされている人であれば,「あ~あるある!」と思うような典型的なトラブルとその解決のために必要な法的知識を,この記事ではご紹介します。

1,ペットショップ・ブリーダー

「購入したペットに病気・障害があることが発覚した」という理由で,買主とトラブルになるケースがあります。

この場合,買主からどのような主張がなされるのでしょうか。

主張①「ペットは返すので,代金を返してほしい」

まず,売買契約を解除または取消す必要があります。

解除・取消ができる主な場合は以下の通りです。

・債務不履行に基づく解除

「病気・障害のないペットを引き渡す債務」があるのにこれを履行しなかったという債務の不履行があるとして解除するという主張です。

・消費者契約法に基づく取消し

事業者が,契約締結に際して,重要事項について事実と異なることを告げ,買主がその告げられた内容が事実であると誤認した場合,売買契約を取り消すことができます(消費者契約法4条1項1号)。

動物販売業者には,ペットの病歴等についての情報を提供する義務が課されていること(動物の愛護及び管理に関する法施行規則第8条の2第2項第16号・第17号)からして,病気や障害の有無は「重要事項」となるでしょう。

そのため,ペットに病気・障害があるのにないと告げ,これを信じて買主が購入した場合には,消費者契約法に基づき売買契約が取消されることになるでしょう。

契約が解除または取り消されると,契約がなかった状態に戻すことになるため,代金を返還して,ペットを返してもらうことになります。

主張②「治療費を支払ってほしい」

この主張を法的にいうと,債務不履行に基づく損害賠償請求となります。

「病気・障害のないペットを引き渡す債務」があるのにこれを履行しなかったという債務不履行があり,これが原因でペットに治療費=損害が生じたため,損害賠償請求をするという主張です。

 

主張③「購入したペットから以前より飼っている別のペットに感染症が移った。2匹分の治療費を支払ってほしい。」

この主張も債務不履行に基づく損害賠償請求となります。

「病気・障害のないペットを引き渡す債務」があるのにこれを履行しなかったという債務不履行があり,これが原因で2匹分の治療費=損害が生じたため,損害賠償請求をするという主張です。

ペットからペットに感染症が移ったという「因果関係」の有無が重要になります。

 

主張④「別の健康なペットを引き渡してほしい」

この主張を法的にいうと,契約不適合責任に基づく追完請求となります。

「病気・障害のないこと」が契約の内容となっているのに,病気・障害があった場合,買主は売主に対し,契約不適合責任として,「代替物の引渡し」=「別の健康なペットの引渡し」を求めることができます(562条1項)。

 

主張⑤「代金を減額してほしい」

売主が「履行の追完」(別のペットとの引渡し)に応じない場合,不適合の程度に応じて代金減額請求ができます(民法563条)。

 

買主の上記①~⑤の主張が認められるかは,ペットの病気や障害が,購入後に生じたものであるか否かが,重要になってくるでしょう。

 

なお,消費者契約法8条1項は,事業者(ペット販売業者)の債務不履行により消費者(買主)に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項は無効としているため,契約書で「一切責任を負いません」等の特約をしてもこれは無効となるので,気をつけましょう。

 

2,トリマー

「仕上がりが思い描いていたものと違う」

「トリミングでペットが怪我をした」

という理由で飼い主とトラブルになるケースがあります。

 

この場合,飼い主からどのような主張がなされるのでしょうか。

 

主張① 「代金を返してほしい(代金は支払わない)」

前提として,トリミングについての契約は,トリミングという仕事の完成を約束するものなので「請負契約」と理解されます。

トリミングを依頼した飼い主には,仕事の完成後,ペットの引き渡しと同時に,報酬を支払う義務があります(民法633条)。

「仕事の完成」とは,トリミングでいえば,契約上予定されていたトリミングの作業が終了すること理解できます。

そのため,トリミングの結果が飼い主の思い描いていたイメージと異なっていたとしても,トリミングの作業工程を終了している以上,報酬の支払を求めることができます。

 

仕上がりイメージについて写真を示してもらう,聞き取った内容をカルテ等の記録でとっておくといった方法で未然にトラブルを防止しておくのがよいでしょう。

 

主張② 「トリミングし直してほしい」

ここでも仕事が完成しているか否かで,再度のトリミングに応じるべきか否か,判断が分かれます。

例えば,「ここまで短くしてください」と写真を示されてサマーカットを頼まれたけれど,実際は写真よりも明らかに長い状態にある場合には,仕事が完成していないと評価されるでしょう。

この場合は,写真のように,再度トリミングを行うべきです。

 

主張③ 「トリミングの際に怪我をしたので治療費を払ってほしい」

この主張は法的には以下のように整理できます。

・債務不履行に基づく損害賠償請求

請負人は,仕事を完成させて,注文者に引渡しをするまで,善良な管理者の注意をもって,物を保存しなければならないという義務(民法400条,善管注意義務)があります。

そのため,トリマーがトリミングの際に,ハサミで誤ってペットを切ってしまったり,トリミング台からの転落により骨折させてしまったりした場合は,善管注意義務違反という債務不履行を理由に治療費を請求できます。

・不法行為に基づく損害賠償請求

トリマーがトリミングの際に猫の尻尾の一部を切ってしまったケースの裁判例では,トリマーがトリミングを実施する際には,飼主に対して,信義則上,ペットの安全に配慮し,傷つけることのないようにトリミングを行うべき注意義務を負うとされました(東京地裁平成24年7月26日判決)。

この事案では,飼主ら4人の慰謝料として合計10万円,治療費・通院費約2万円の損害賠償が認められました。なお,トリマーの勤務先会社に対しても使用者責任(民法715条,不法行為の一種)が認められました。

 

3,まとめ

今回は,ペットの売買やトリミングにおいて発生しがちな法的トラブルについて,ご紹介しました。

飼主の要求は正当なものなのか?

責任の有無を判断するにあたって何がポイントとなってくるのか?

そういったお悩みの参考になればと思います。