債務整理手段の1つである自己破産を申し立てると、一定の調査を受けます。
自己破産はほとんどの借金を帳消しにできる手続きであるため、誰でも利用できるわけではありません。
自己破産の手続きに適しているのか、詳細な調査を受けるのが一般的です。
債務整理の手続きを検討している人は、自己破産の際に行われる調査の内容について、十分理解を深めておくとよいでしょう。
今回は、自己破産申し立ての際の調査について解説します。
調査の実行者や調査対象の情報、および自己破産を行っても残る資産などについても説明します。
- 自己破産申し立てにより破産管財人による調査を受ける
- 自己破産を行った理由についても調査される
- 財産隠しは上手くいかないと考えておくのが無難
- 家族の資産など調査対象外のものもある
- 自己破産をしても生活に必要な財産は残る
- 一定の資産を残したい場合は他の債務整理方法を検討する
借金に苦しんでいる人は、この記事を参考にして債務整理に関する理解を深めてください。
自己破産では調査を受けるのが一般的
自己破産の申し立てをすると、一定の調査を受けるのが一般的です。
自己破産の公平性を担保するため、厳正な調査を受けて申し立ての可否が決定されます。
自己破産における調査について、以下の4つの項目を中心に解説します。
- 調査をするのは破産管財人
- 調査をする目的は申立人が提供する情報の正確性を検証するため
- 管財事件の場合のみ調査される
- 調査対象は多岐に及ぶ
自己破産実行前に知っておきたい内容であるため、ぜひ参考にしてください。
調査をするのは破産管財人
自己破産を申し立てた人の財産や借金についての調査をするのは、破産管財人と呼ばれる人です。
破産手続きにおいて破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する人で、裁判所が選任した弁護士が担います。
破産管財人は、債務者や債権者など関係者の利害を調整する立場で、破産申立人の所有する財産を管理し売却するのが主な役割です。
破産申立人の財産や借金を正確に把握し、適正な処分を実行するため、破産管財人は申立人についての調査を実施します。
破産を申し立てた人は、破産管財人の調査に対して誠実に対応する義務を有します。
調査をする目的は申立人が提供する情報の正確性を検証するため
破産管財人が申立人の財産や借金についての調査をする目的は、申立人が提供する情報の正確性を検証するためです。
自己破産は法的な手続きで、借金がどれだけ高額であったとしてもすべて免除されるなど強力な効果が期待できます。
申立人が提供する情報に虚偽があると、債権者にとって不当な損失を負わせてしまいかねません。
以下のような内容を隠した状態で自己破産をすると、債権者に不利益を与えてしまいます。
- 財産を隠して自己破産後に保持し続ける
- 一部の債権者への借金を申告しない
- ギャンブルが理由で借金をした
破産管財人は、債権者の利益保護を含めて自己破産手続きの公平性を確保するため、厳格な調査の実施が求められます。
管財事件の場合のみ調査される
破産管財人による調査は、管財事件と少額管財事件の場合のみに実施されます。
自己破産は手続き上、以下の3種類の分類があります。
- 同時廃止事件
申立人が財産を持っていないと明らかにわかる場合に適用される
- 管財事件
一定以上の財産を所有している場合、または免責不許可事由の疑いがある場合に適用される
- 少額管財事件
管財事件のうち、申立人の所有財産額が少額の場合にのみ、一部の裁判所において適用される
同時廃止事件の場合はそもそも破産管財人の選定がなされないため、伴って調査も実施されません。
同時廃止事件と管財事件の振り分けは、以下の基準に基づいて実施されるのが一般的です。
- 一定額以上の財産を保有している
- 財産があるかどうか申し立てがあった時点は不明の場合
- 免責不許可事由の可能性がある
- 申立人が個人事業主あるいは法人代表者の場合
自己破産の申立時に、ご自身の財産や借金の理由を考慮し、調査の有無について確認しておきましょう。
調査対象は多岐に及ぶ

破産管財人が実施する調査は、その対象が多岐に及びます。
申立人における以下のような項目について、破産管財人は調査を実施します。
区分 | 調査対象の項目 | 注意点 |
---|---|---|
対象 | 銀行・ゆうちょの預貯金口座 | 管財人が金融機関へ一括照会し残高を把握します |
土地・建物などの不動産 | 登記簿で名義や移転時期を確認します | |
自動車・バイク | 車検証や登録簿で所有者と評価額を確認します | |
貴金属・美術品など20万円超の動産 | 市場価格を調査し、高額品は換価の対象になります | |
終身保険・個人年金保険の解約返戻金 | 保険会社に照会し、返戻金がある場合は財団に組み入れます | |
株式・投資信託などの有価証券 | 証券会社から取引履歴を取得し、時価評価します | |
他人に対する貸付金(売掛金・立替金を含む) | 債権譲渡や回収見込みを確認し、財団債権として管理します | |
原則対象外 | 配偶者や子ども名義の資産 | ただし申立前2年以内の名義変更は否認対象になります |
スマートフォン内の個人データ | 端末自体が高額の場合は換価対象になることがあります |
※表は主な調査対象の一例です
※参照:破産法(34条、41条、84条、160条、161条)ー e-Gov法令検索
自己破産の申立時には、申立人が財産目録を提出するのが一般的です。
破産管財人は、提出された財産目録に基づき、内容の正確さや虚偽の申告がないか確認をします。
厳格な調査が実施されるため、財産として認められるものを隠しながら自己破産を実施するのは困難であると認識しましょう。
なお、申立人本人名義の財産のみが対象となるため、家族や親類など本人以外の財産については調査の対象になりません。
自己破産時の調査の基本的な方法を知っておこう

自己破産を申し立てた際に受ける調査について、基本的な流れや方法を理解しておくと安心です。
基本的に、破産管財人が行う調査には協力する必要があるため、誠実に対応しましょう。
調査への態度次第では、自己破産申し立ての認定に悪影響が及ぶ可能性もあります。
自己破産実行時に受ける調査の基本的な方法や流れは、以下の通りです。
- 申立人からの提出書類を精査する
- 破産管財人による聴取を受ける
- 郵送物や給与明細などを調査される
- 申立人の住まいなどへ現地調査に来る
- 各種機関に対し情報照会を実施する
厳格な調査が実施されるため、給料や財産に関する情報をあらかじめまとめるなど、準備しておくとよいでしょう。
申立人からの提出書類を精査する

破産管財人による調査は、申立人から受け取った提出書類を精査するところから始まります。
自己破産に関連して提出を求められる書類としては、以下のようなものが挙げられます。
- 預金通帳のコピー
- 勤務先からの給与明細
- 直近の源泉徴収票
- 退職金見込額証明書(勤務先に発行を依頼する必要がある)
- 財産目録
- 不動産登記事項証明書
- 不動産評価額関係書類
- 自家用車の車検証
- 登記事項証明書のコピー
- 生命保険証書および生命保険の解約返戻金計算書のコピー
- 受給証明書のコピー(生活保護や年金など各種扶助を受け取っている場合)
- 株やFXなど資産運用の実績がわかる取引明細
- 滞納している税金の種類や滞納期間がわかる資料
提出をした際に、明らかに不備や不足があると認められる場合は、再提出を求められるケースもあるため、確実に準備するのが大切です。
虚偽の書類を準備しても、調査によってバレてしまう可能性が高いため、誠実に準備するようにしましょう。
破産管財人による聴取を受ける
求められた書類を提出した後は、破産管財人による精査の後、直接面会をして聴取を受ける流れが一般的です。
破産管財人による聴取は、破産申立人だけでなく、債権者など利害関係者に及ぶケースもあります。
破産管財人による聴取には、嘘偽りを述べずに正直に答えましょう。
破産管財人に任命されている人は、同様の事案を多く取り扱ってきた経験豊富な弁護士であるケースが多いです。
少しでも有利に手続きを進めるため、財産や借金について嘘をついたとしても、すぐに見抜かれてしまうでしょう。
提出資料や聴取において誠実な対応をしていないとみなされると、破産管財人の印象を悪くしてしまうかもしれません。
不誠実な対応自体が免責不許可事由とみなされ、破産が認められない可能性があるため、聴取には誠実な対応が求められます。
郵送物や給与明細などを調査される
破産管財人による調査は、郵送物や給与明細なども対象に含まれます。
自己破産の申し立てをすると、破産申立人の自宅に届く郵送物は破産管財人に転送される仕組みです。
破産管財人は、転送された郵送物を開封して中身を確認する権限を有します。
そのため、申告していなかった金融機関や投資先からの郵送物が届き、隠し財産が発覚するケースが多いです。
さらに、破産管財人は給与明細や源泉徴収票および確定申告書など収入に関連する書類を確認する権限もあります。
源泉徴収票や確定申告書の確認において、生命保険控除が行われていれば、保険契約の事実も発覚します。
解約返戻金のある生命保険や年金保険は本人の財産であるため、隠していると虚偽の申告とみなされ不利な判断がなされるでしょう。
申立人の住まいなどへ現地調査に来る
書類の精査や直接の聴取を終えた後は、現地調査に取り掛かります。
持ち家や自家用車がある場合には、破産管財人が申立人の自宅などに訪れて現物の確認を行います。
破産管財人が自宅に現地調査に来る際は、必ず立ち合いに応じましょう。
自宅に破産管財人が訪れるため、もし家族に破産手続きについて隠していたとしても、この時点で知られてしまう可能性が非常に高いです。
自己破産は、家族に内緒で進めるのはほぼ不可能と考えられます。
早めに破産手続きの事実を伝えて、理解と協力を得るほうが無難です。
なお、破産管財人による現地調査は、必ず実施されるわけではありません。
書類の精査や申立人など関係者への聴取により、資産状況が明らかで現地調査の必要がないと判断される場合は、実施しないケースもあります。
各種機関に対し情報照会を実施する
破産管財人が必要と判断した場合、各種機関に情報照会を実施する場合があります。
自己破産の調査における情報照会の内容としては、以下のような内容が一般的です。
- 銀行など金融機関
預金残高の照会
- 証券会社
株式の配当金や有価証券の保有状況に関する照会
- 保険会社
解約返戻金の有無についての照会
- 税務署や法務局
保有不動産の有無の確認のため固定資産税や不動産登記の状況の照会
破産管財人は、各種金融機関や公的機関などに対して照会を実施する多くの権限を持っています。
秘密裏に財産を隠して、自己破産の手続きを終えるのは不可能と考えるほうが無難でしょう。
最初に申告していなかった財産が調査の結果で見つかった際は、破産管財人の印象を悪くしてしまいます。
破産申し立てをする際は、すべての財産をもれなく申告するのが大切です。
自己破産の手続きはどれくらいで終わる?

自己破産の手続きが終わるまでの長さは、同時廃止、少額管財、通常管財と事件の種類で大きく変わります。
まずは手続き全体にかかる期間を比較してみましょう。
手続き | 調査の有無 | 手続き期間の目安※1 | 主な作業 | 予納金の目安※2 |
---|---|---|---|---|
同時廃止事件 | なし(管財人選任なし) | 3〜4か月 | ・裁判所が書面審査のみで完結 | 約1.2万円(官報公告費) |
少額管財事件 | あり(簡易調査) | 1〜3か月 | ・破産者面談 ・預金、保険残高の確認 ・簡易な資産売却 | 20〜22万円 |
通常管財事件 | あり(詳細調査) | 2〜4か月+資産が多い場合はさらに数か月 | ・不動産・動産の評価と売却 ・金融機関、取引先への照会 ・詳しい報告書作成 | 50万円前後 |
※1)全国主要地裁の平均的な目安のため、個別事案で前後します。
※2)予納金は裁判所・資産状況で変動します。
調査が行われるケースと平均期間
- 同時廃止事件
調査そのものがなく、裁判所の書面審査だけで完結します。
- 少額管財事件
簡易調査にとどまるため1〜3か月が一般的です。面談と口座・保険の残高確認で完了することが多く、債権者集会は1回で済むケースが大半です。
- 通常管財事件
不動産の売却や複数の金融機関照会が必要になり、2〜4か月+資産の複雑さに応じて延びる傾向があります。債権者集会は複数回開かれることも珍しくありません。
調査が平均期間より長引く場合は、以下のような原因が考えられます。
- 換価に手間がかかる資産が多い
不動産や解約返戻金付き保険が複数あると評価や売却に時間がかかります。
- 書類提出が遅れる
通帳コピーや契約書などが揃わないと管財人は確認を進められません。
- 債権者から追加の質問が入る
問い合わせ対応で1〜2か月延びることがあります。
調査を早く終わらせるには、裁判所や管財人から求められた書類をすぐに提出し、資産の内容をあらかじめ弁護士と整理しておくことが大切です。
自己破産の理由についても調査される
自己破産の申立人に対する調査は、財産や借金の内容についてのみではありません。
自己破産を申し立てた理由についても、破産管財人の調査対象に含まれます。
自己破産の認定には、正当性が本当にあるのかの検証が重要です。
前述のように債権者の立場においては、債務者の自己破産は貸し付けた債権が回収できず損失を被ってしまいます。
したがって、裁判所においても正当な理由がないと自己破産を認定できません。
破産管財人の調査内容としては、自己破産申立理由の調査は重要な要素といえます。
免責不許可事由に該当すると自己破産が認定されない
破産管財人の調査の結果、免責不許可事由に該当すると認められた場合、自己破産の認定が得られない場合があります。
免責不許可事由とは、自己破産の申し立てを行ったものの、認定を受けられず借金の免責が得られない事情を指します。
免責不許可事由に該当する条件として多く見られるケースは、以下の事例です。
- 財産隠し
- 自己破産を前提にして借金をする
- 特定の債権者のみに返済する行為
- 浪費または賭博による生活苦
- 調査協力義務に違反する行為
- 帳簿隠しや虚偽の債権者名簿提出
以上のような免責不許可事由があった場合は、自己破産の認定が下りないケースが多いです。
しかし、免責不許可事由に該当していても反省文の提出などにより認定を得られる場合もあります。
破産管財人からの求めに対しては積極的な協力を惜しまず、正直な姿勢で臨みましょう。
調査には協力の義務があり避けられない
破産管財人による調査に対し、破産申立人は協力の義務があります。
破産管財人からの要求に対しては、拒否する権限がありません。
参照元:破産法
協力しないと免責不許可事由とみなされ、自己破産の認定が得られる可能性は低くなるでしょう。
自己破産の認定を受けるためには、破産管財人の指示や要求を拒否する権利はないと自覚し、実直な態度で対応するのが必須といえます。
調査協力を拒否したらどうなる?
自己破産を申し立てた人には、裁判所と破産管財人から求められた情報を正直に開示し、質問に答える義務があります(破産法41条・252条1項8号)。
たとえば家計簿や通帳コピーを出さなかったり、財産を少なく申告したりすると、裁判所は免責を許可しない理由として扱います。
さらに、財産を隠すなど債権者を害する目的で虚偽の説明や行為をした場合は詐欺破産罪(破産法265条)にあたり、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科される可能性もあります。
実際の裁判例では、氏名を偽装して債務を隠したケースで免責が取り消されました。
裁判例:氏名偽装で債務を隠した結果、免責が取り消し
千葉地方裁判所八日市場支部 2017年4月20日決定(免責許可決定に対する即時抗告事件)では、破産者が旧姓を用いてクレジット債務を申告せず、資産状況を偽った行為が破産法252条1項1号・8号の免責不許可事由に該当すると判断されました。裁判所は「虚偽説明は重大かつ悪質で、裁量免責をもってしても債権者の利益を著しく害する」として、いったん下りていた免責許可決定を取り消しました。
この決定は、調査協力を拒んだり虚偽申告を行った場合、免責が得られないだけでなく将来の刑事責任(詐欺破産罪など)にもつながり得ることを示す具体例です。
調査への協力を怠ると手続そのものが長引くだけでなく、借金がゼロにならないばかりか刑事罰まで背負うリスクがあります。
求められた書類は期限内に提出し、不明点があれば早めに弁護士へ相談しましょう。
財産隠しは失敗する可能性が非常に高い
自己破産を申し立てする際に、財産を隠す行為は失敗に終わる可能性が非常に高いです。
以上で紹介したように、破産管財人の調査は多岐にわたります。
破産管財人の財産調査は、金融機関などへの照会など、幅広い権限があるのも特徴です。
自己破産の申し立てをする際は、財産を隠す行為はあきらめ、正直に現状の申告をするよう心がけましょう。
自己破産申し立てにおいて、財産隠しが失敗する可能性が高い理由として、主なものを以下に4例紹介します。
- 銀行口座は確実に調査される
- 現金は預金の入出金履歴から追及される
- 不動産や自動車も隠すのは難しい
- 保険返戻金は各種書類から発覚する
以下に、それぞれの内容について紹介するため参考にしてください。
銀行口座は確実に調査される
破産管財人は、破産申立人の銀行口座を確実に調査します。
複数ある銀行口座のうち、残高が少ない口座のみを申告したとしても、入出金履歴から不審な点を追及され発覚するケースが多いです。
自己破産申し立てをする前に、ある銀行口座の残高を別の口座に移し、残高を少なくした口座のみを申告すればよいと考える人も多いでしょう。
過去の入出金履歴は確実にチェックされてバレてしまう可能性が高いため、おすすめできません。
破産管財人は銀行への照会も可能であるため、隠し通すのは難しいです。
保有する銀行口座は、自己破産申立時にすべて申告する必要があります。
現金は預金の入出金履歴から追及される
銀行預金から現金を引き出しておき、隠し持っておく方法を思いつく人もいるかもしれません。
しかし、現金についても銀行預金の入出金履歴から追及され、隠蔽が発覚するケースが多いです。
現在は、銀行口座を介さない金銭のやり取りはほとんどありません。
そのため、銀行口座の入出金履歴の確認を受けた際に不審な引き出しがあると、追及されてしまう可能性が高いです。
現金を隠し持つ行為も、現実的には難しいといえるでしょう。
不動産や自動車も隠すのは難しい
持ち家などの不動産や、保有する自家用車を隠すのも難しいでしょう。
不動産も自動車も、固定資産税や自動車税の納付により、保有の事実が発覚する場合が多いです。
自己破産申立時に、家族の資産は調査の対象外であるため、名義を家族に変更する人もいるかもしれません。
しかし、名義変更は不動産登記簿や車検証などにより履歴が残ります。
名義変更の時期や相手から、財産隠しと判断されてしまう可能性が極めて高いです。
不動産や自動車など、価値の高い資産を隠すのも現実的には不可能だと考えられます。
保険返戻金は各種書類から発覚する
自己破産の申し立ての直前に保険を解約して、保険返戻金を受け取り、隠す行為を思いつく人もいるかもしれません。
しかし、保険返戻金についても隠し通すのは難しいです。
受け取った返戻金を隠したとしても、保険会社からの郵便物や源泉徴収票などから発覚してしまいます。
自己破産申し立てにより、郵送物は破産管財人が開封します。
源泉徴収票や確定申告書も調査の対象であるため、確認されるのが一般的です。
保険返戻金の受け取りはほとんどが銀行預金を介するため、入出金履歴の確認によっても発覚する場合が多いでしょう。
自己破産で家族名義に移した財産はバレる?

破産の直前に車や預金を配偶者や子ども名義へ変えても、破産管財人の調査でほぼ確実に発見されます。
名義変更から2年以内の取引は重点確認の対象になり、以下のような横断照会で足跡をたどられます。
- 自動車登録簿を取り寄せて所有者履歴を確認する
- 不動産登記簿を閲覧し、持ち主の移転時期を調べる
- 金融機関へ一括照会を行い、大口の払出しや名義振替を抽出する
- クレジット契約や保険契約を照合し、解約返戻金や積立商品を把握する
破産法160条・161条は、支払停止後または申立て前2年以内に行った無償・低額の贈与や名義変更を否認の対象と定めています。
管財人が否認権を行使すると、名義変更は取り消され、財産は破産財団へ戻されます。
さらに、こうした移転を申告しないまま手続きを進めると、免責不許可(破産法252条1項1号・8号)の典型事由となり、状況次第では詐欺破産罪で刑事責任を問われる恐れもあります。
実際に氏名を偽装して債務を隠したケースでは、免責が取り消されています。
裁判例:氏名偽装により免責許可決定が取り消し
千葉地方裁判所八日市場支部 2017年4月20日決定(免責許可決定に対する即時抗告事件)では、破産者が旧姓を使ってクレジット債務を申告せず、資産状況を偽った行為が破産法252条1項1号・8号の免責不許可事由に当たると判断されました。裁判所は「虚偽説明は重大かつ悪質であり、免責を認めれば債権者の利益を著しく害する」として、いったん下りていた免責許可決定を取り消しました。この決定は、名義変更や情報隠しを行うと免責が得られないばかりか、場合によっては詐欺破産罪にもつながることを示す実例です。
家族名義であっても安全ではないので、過去に名義変更がある場合は、弁護士に相談して正確に申告することが再スタートへの近道です。
財産隠しが発覚した判例は?
財産を移したり申告しなかったりすると、裁判所は免責を認めず、手続そのものを排斥することがあります。
主な裁判例を3件まとめましたので、参考にしてください。
判例 | 概要 |
---|---|
海外口座隠匿で破産申立が却下 | 海外口座の残高を申告せず破産を申立てたため、財産開示義務違反として手続開始自体が却下 |
浪費による多重債務で免責不許可 | クレジット浪費を繰り返し資産拠出もゼロ。浪費が著しいと評価され、裁量免責の余地なく免責が不許可 |
浪費債務でも部分免責が認められた | 浪費債務ながら隠匿が軽度で再建努力が認められ、元本1割を残した部分免責に |
海外口座を隠したため破産申立が却下されたケース
東京地方裁判所 2001年10月24日決定では、申立人が海外口座の残高を申告しないまま破産を申し立てました。
裁判所は、財産開示義務に違反する重大な隠匿行為であり、破産法上求められる誠実性(信義則)にも反すると判断し、破産手続開始の申立そのものを却下しました。
この決定は、破産手続きが始まる前に資産隠しが発覚した場合でも、破産の利用が認められないという厳しい姿勢を示しています。
財産をすべて正直に申告しなければ、手続の入り口で閉め出されるリスクが高いことを教えてくれる重要な判例です。
浪費が原因の多重債務で免責が認められなかったケース
盛岡地方裁判所宮古支部 1994年3月24日決定では、クレジットカードの衝動買いとリボ払いを繰り返して多重債務に陥った申立人が、自己破産と同時に免責を求めました。
しかし裁判所は、以下を重視し、浪費が著しく、その経緯も誠実さを欠くと判断しました。
- 支出の大半がブランド品や娯楽費など明らかな浪費であったこと
- 返済能力を超える利用を自覚しながら借入れを重ねたこと
- 破産手続に入る段階でも資産の拠出を一切行わなかったこと
結果、免責申立は不許可とされ、借金は残ったままになります。
この決定は、生活維持の範囲を超える浪費によってできた負債については、裁量免責がほとんど認められないことを示しています。
クレジットカードの使い過ぎやギャンブルによる借金で破産を考えている人は、浪費の程度や債務形成の経緯が厳しくチェックされる点に注意が必要です。
浪費債務でも一部免責が認められたケース
東京地方裁判所 1994年2月10日決定は、ブランド品購入や娯楽費で膨らんだクレジット債務についての免責申立てです。
裁判所は浪費による多重債務という不利な事情を認めつつも、次の点を重視して元本の1割を残した部分免責を許可しました。
- 隠匿行為が軽度
家計簿の提出や面談に誠実に応じ、資産の申告漏れがなかった点を評価しました。
- 生活再建への努力が見られた
申立前から家計を切り詰め、副業で返済資金を確保しようとしていた事実が確認できました。
- 債権者への影響が限定的
残債務を分割で返済する計画を示し、債権者の回収可能性を一定程度維持したことも考慮されました。
この判例は、浪費が原因でも「隠匿の有無」「生活再建の意思」「債権者への配慮」といった事情によっては全面不許可ではなく一部免責にとどまる可能性があることを示しています。
浪費型の債務でも、誠実な情報開示と具体的な再建計画が免責判断に大きく影響する点が重要です。
これらの判例は、財産の移転や虚偽申告が確認されると免責が得られない、あるいは手続自体が進まないことを示しています。
破産前の名義変更や申告漏れは重大なリスクになるため、必ず弁護士に相談し、正確に申告することが大切です。
調査対象にならない内容も理解しよう
以上のように、破産管財人は申立人の財産や申し立てを行った理由など様々な範囲の調査を実施します。
一方で、調査対象にならない内容もあるため、申立人の生活のすべてが知られるわけではありません。
調査対象と誤解されるケースが多い事項について、主なものを以下に3項目紹介します。
- 家族の財産や借金は調査対象外
- スマートフォンの利用履歴なども原則調査対象外
- 犯罪歴も自己破産とは無関係と考えられる
自己破産申立人の個人情報や家族に関する事項などは調査対象外であるため、準備する必要はありません。
家族の財産や借金は調査対象外
自己破産申立人の家族や親類の財産や借金は、調査の対象外です。
例えば、自己破産人の配偶者が保有する不動産や自動車は調査されません。
家族の身辺調査が行われることも通常はありませんが、自己破産前の資産の名義変更に関しては確認されるケースが多いです。
財産隠しは現実的には難しいため、おすすめできません。
申立人の家族も調査に備えて財産をまとめる必要があると考える人が多いですが、不要であるため安心して対応しましょう。
スマートフォンの利用履歴なども原則調査対象外
自己破産申立人のスマートフォンの利用履歴などは、原則調査対象外です。
スマートフォンによる通話履歴やSNSへの投稿履歴など、個人情報に関連する事項は原則的に調査を受けません。
しかし、申立人の破産の原因が賭博などの浪費であると疑われている場合は、オンラインサービスの利用履歴などを確認される可能性があります。
オンラインカジノなど、近年はインターネットを介したギャンブルのサービスが普及しています。
過剰なオンラインでのサービス利用により破産するケースも近年は増えているため、調査の対象になるケースも多いです。
スマートフォンの利用履歴は原則調査対象外ですが、破産申し立ての内容次第では調査を受ける可能性があると理解しましょう。
犯罪歴も自己破産とは無関係と考えられる
破産申立人の過去の犯罪歴も、自己破産とは直接の関係がないために、調査の対象外と考えられます。
過去に何らかの罪を犯した場合でも、自己破産の申し立てに悪影響が及ぶケースは原則的にありません。
犯罪歴を持っている人が自己破産をする際には、罰金が免責の対象にならない点に注意しましょう。
犯罪歴自体は自己破産の認定に影響しませんが、罰金の支払い義務が残る点は理解しておく必要があります。
自己破産ですべての資産が没収されるわけではない
自己破産の申し立てをして認定を受けた場合、すべての資産が没収されると理解している人もいるかもしれません。
しかし、実際には一部の資産が手元に残ります。
最低限の生活を維持するために必要と考えられる資産は没収されないため、生活が送れなくなるわけではありません。
自己破産の認定後、手元に残る資産について以下に紹介します。
- 99万円以下の現金
- 差し押さえが禁じられている財産がある
- 破産手続き開始後に取得した財産も残せる
- 破産財団が処分を放棄したものも戻ってくる
破産管財人の調査に対して財産隠しをしようと考えず、残る資産について理解して正しい対応をしましょう。
99万円以下の現金は生活に必要とみなされる
99万円以下の現金は、生活に必要な資金とみなされて没収の対象外とされます。
預貯金については、原則的に自由財産と認められず没収の対象となるのが一般的です。
しかし、破産管財人の意見を確認したうえで裁判官が自由財産の範囲拡張の判断をすると、没収されません。
現金と預貯金の合計額が99万円未満の場合は、現金も預貯金も手元に残せる可能性はあるものの、引き出しておいたほうが無難でしょう。
差し押さえが禁じられている財産がある
破産法によって差し押さえが禁じられている財産も、破産後に手元に残ります。
差押禁止財産とは、主に以下の2種類に分けられます。
- 差押禁止動産
- 差押禁止債権
それぞれの詳細について、以下で解説します。
日常生活における必需品である差押禁止動産
差押禁止動産とは、日常生活において必需品と考えられるものです。
主に、以下のようなものが該当します。
- 生活に欠くことができない衣服や寝具など
- 1ヶ月間の生活に必要な食料や燃料
- 標準的な世帯の2ヶ月間の必要生活費
- 業務に必要な器具など
以上に加え、仏壇や位牌などの宗教に関連するものや勲章など名誉に関するものも差押禁止動産に含まれます。
最低限の生活に要する収入である差押禁止債権
差押禁止債権とは、最低限の生活に要する収入です。
差押禁止債権には、以下のようなものが挙げられます。
- 月額給与の4分の3
- 確定拠出年金
- 退職金共済
- 失業保険
- 年金や生活保護の受給権
月額給与が33万円を超える場合は、超過部分は差し押さえを受けてしまいます。
破産手続き開始後に取得した財産も残せる
破産の手続きを開始した後に取得した財産も、没収されず残ります。
破産開始後の取得財産は新得財産と呼ばれ、自己破産申立人が再起を図れるように没収対象外とされています。
破産手続き開始決定の時点を基準として財産を固定する考え方を固定主義と呼び、それ以降の資産は没収の対象外です。
破産財団が処分を放棄したものも戻ってくる
破産財団が処分を放棄した財産も、自己破産申立人の元に戻ってきます。
破産財団から放棄される資産とは、以下のようなものです。
- 財産価値が低すぎる財産
- 処分するために高額の費用がかかる財産
- 買い手がつかない可能性が高い財産
- 保存するのに費用がかかりすぎる財産
以上のように、債権者への配当に充てるのが難しいと判断される資産が放棄債権となるケースが多いです。
財産を残したい場合は他の債務整理の方法を検討する
自己破産を選択して認定された場合は一部を除きほとんどの財産を没収されます。
不動産や自家用車など、所定の財産を残したい場合は、自己破産以外の方法を選択するのがよいでしょう。
自己破産以外の主な債務整理方法について、以下に2つ紹介します。
- 債権者と直接交渉をする任意整理
- 条件次第で持ち家を残せる個人再生
借金の金額と保有財産を考え、どの債務整理方法がご自身に適しているのか検討するのがおすすめです。
債権者と直接交渉をする任意整理
任意整理とは、債権者と直接交渉をして借金返済の計画を再構築する方法です。
借金そのものの減額を交渉するのではなく、将来の利息を免除してもらったり、返済期限の延長を認めてもらったりするために交渉をします。
裁判所を介さない手続きであり、簡易に対応ができる方法の1つです。
他の方法のように財産を没収される心配がないため、残したい財産がある場合に選択をするとよいでしょう。
しかし、借金自体が免除されるわけではなく、自力での返済が不可欠であるため、将来的に一定の収入を得られる見通しがないと選択できない方法といえます。
条件次第で持ち家を残せる個人再生
個人再生は、裁判所を介して行う手続きの1つです。
裁判所の認定を受ければ、借金額を5分の1から10分の1程度にまで減額できます。
個人再生を選択した場合、基本的には財産の差し押さえを受けません。
自家用車については、マイカーローンが残っている場合は処分の対象となってしまいます。
しかし、ローンを完済している場合には手元に残せます。
持ち家についても同様に、住宅ローンを完済している場合は処分されません。
さらに、個人再生の場合は住宅ローン特則があります。
特則が認定された場合には、住宅ローンが残っている住宅に関しても処分の対象外となります。
個人再生を選択した場合は、条件次第で資産を残したまま債務整理ができます。
債務整理は信用情報機関への事故記録がなされる
任意整理および個人再生あるいは自己破産の選択に関わらず、債務整理を実行した際には信用情報機関への事故記録は避けられません。
事故記録が消滅するまでは、新規にクレジットカードの発行やカードローンでの借り入れは不可能となる可能性が高い点は理解しておきましょう。
債務整理を実行した場合は、それまでの生活様式の変化を余儀なくされます。
その中で、ご自身の保有資産と借金のバランスを考慮して、最適な方法を選択するのが大切です。
よくある疑問をまとめてチェックしよう
手続きの流れを読んでも「自分の場合はどうなるのだろう」と感じる人は少なくありません。
そこで、破産管財人の調査や免責に関してよく寄せられる質問をまとめました。
申立てを検討中の場合や、弁護士との面談前に疑問を解消したい人は参考にしてください。
自己破産の手続はどれくらいで終わりますか?
同時廃止事件は書類確認だけで済むためおよそ3〜4か月、少額管財事件は簡易調査が入るので1〜3か月、通常管財事件は資産が多いほど時間が延び 2〜4か月程度が目安です。
通帳や保険証券などを早めにそろえて提出すれば、その分だけ手続も前倒しになります。
調査協力を拒否するとどうなりますか?
家計簿や通帳を出さない、虚偽の説明をする行為は 免責が下りない代表例です。
さらに悪質だと判断されると、詐欺破産罪で懲役刑や罰金を科される可能性もあります。素早く正直に答えることが、借金をゼロに近づける最短ルートです。
家族名義に移した財産はバレますか?
名義を変えても、管財人は登記簿や銀行照会で簡単に足跡をたどります。
申立前2年以内の贈与や譲渡は取り消され、財産が戻されることがほとんどです。
見つかれば免責が認められない恐れもあるため、名義変更はしない、または既にした場合は正直に申告するのが鉄則です。
財産隠しが発覚した判例には何がありますか?
海外口座を申告せず破産を申し立てたケースでは、東京地裁が手続開始そのものを却下しました(2001年10月24日決定)。
この判例は、海外にある口座の残高を隠したまま自己破産を申し立てたところ、「そもそも財産を開示しない人に破産手続を利用させるわけにはいかない」として、裁判所が手続を始める前に申立そのものを却下したケースです。
つまり、資産を隠すと「破産手続を使う資格さえない」と判断されてしまいます。
自己破産時の調査は厳正かつ徹底的に実施される
自己破産の申立人に対しては、破産管財人により厳正かつ徹底的な調査が実施されます。
自己破産は、法的に借金を帳消しにできるため、債権者にとっては多大な損失を被る行為といえます。
そのため、自己破産の認定をする裁判所としても正当な理由がないと実行ができず、厳正な審査の実施が必須です。
自己破産の基本的な手続きの流れは、以下の通りです。
- 申立人からの提出書類を精査する
- 破産管財人による聴取を受ける
- 郵送物や給与明細などを調査される
- 申立人の住まいなどへ現地調査に来る
- 各種機関に対し情報照会を実施する
調査は、自己破産を申し立てた理由についても及びます。
免責不許可事由があると認定された場合は、自己破産ができないケースもあります。
財産を隠して自己破産を行い、手元に資産を残そうとしても、以下のような理由で失敗に終わるケースが多いためやめましょう。
- 銀行口座は確実に調査される
- 現金は預金の入出金履歴から追及される
- 不動産や自動車も隠すのは難しい
- 保険返戻金は各種書類から発覚する
自己破産を行ったとしても、99万円以下の現金など生活に必要な財産は手元に残せるため、財産隠しなどを考えず正しい手続きを心がけるのが肝要です。
自家用車や持ち家など、どうしても残したい財産がある場合は、任意整理や個人再生など自己破産以外の方法を検討してください。
自己破産を実行する前に、破産管財人が取り組む調査についての理解を深め、適切な対応を心がけましょう。